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The Fish Story

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  3

9月17日(月)

遥: …………
  ふあぁ……。

 目を覚ます。
 目覚ましがなる前に起きたようだな……

遥: ……アイリスに謝らなきゃなー。

 着替えて部屋を出る。

遥: ……電気がついているから、起きていると思うが……

 ノックするが反応が無い。
 少し開けて覗いてみると、ベッドの上に座っているアイリスが見えた。
 俺はそのままドアを開ける。

遥: おはよう。アイリス。
アイリス: …………
遥: アイリス?
遥: ……座りながら寝てるし。

 もしかして昨日の夜から……?
 うわ、顔に涙の後が多数……

遥: アイリス、起きろ。
アイリス: ……ん、んん〜?
     ……あ、遥様……
     …………。
アイリス: んきゃあっ?!!?
   ははははるっ!!!??

遥: 落ち着け。
アイリス: あ、あわっ!わわっ?!
遥: 深呼吸だ。
アイリス: はぁ……はぁぁ〜……
     あ、お、おはようございます……。
遥: アイリスっ!ごめんなっ!
アイリス: え……、え?
遥: これからは俺の部屋で寝てもいいから。
アイリス: え……あっ……
     いいんですかっ!
遥: おうっ!もう好きなだけ寝てくれぇっ!!
アイリス: 遥様ぁ〜……


 …………。
 と、妙なテンションで目覚めた後、朝食を作ってもらい、食べる。

アイリス: あの、家事以外にも、やっておく事はありますでしょうか?
遥: うーん……特に無いけど……
  あ、自分の部屋を整理したらどう?
  簡単に片付けただけだから、見栄えも良くないし。
アイリス: あ、はい。
遥: あの部屋は好きに使っていいからさ。もともと物置になってたし。
アイリス: はいっ!有難う御座います!
遥: じゃ、行ってきます。
アイリス: あ、あのっ!
     なるべくその……
     は、早く帰ってきてくださいね……
遥: いや、それはわからないけど……
アイリス: あうぅ……っ

 ……まあ無理も無いかも。
 休みの間、アイリスは片時も俺のそばを離れなかったし……不安なんだろうが。

遥: なるべく早く帰ってくるよ。
アイリス: は、はいっ!
遥: 行ってきます。
アイリス: 行ってらっしゃいませっ!

 …………。
 行くか。

遥: ホント、すごい会話してるもんだ。我ながら。

 

 

 校門の前でバスケ部の奴らと出くわす。

男子生徒: ようっ、遥。
遥: スミス・ウェッソンか。
S&W: おう。今日はバスケ部での朝練だぜ。
遥: へぇ……珍しいな。バスケ部が朝練なんて。
  いつもお前一人でやってるのにな。
S&W: そろそろ大会が近いからなぁ!
   かぁぁっ!燃えるぜぃっ!朝練は男の生き様よぉっ!
遥: そうか、そろそろなのか……。
  どうだ調子は。
S&W: 上がってきたところさ。
    先輩達も調子がいいみたいだし。
    ふっ……これは優勝間違いなしだな。
遥: ふぅん……。
S&W: おい遥っ!
    今日も勝負しようぜ。
遥: また100メートル勝負か?
  いつも言ってるがおれは長距離選手……
S&W: いいだろ?な?やろーぜ。
遥: まあいいけど。
S&W: うーっし!今度こそ勝ってやるぜぃっ!
遥: じゃあまた後でな。
S&W: おう。

 奴と別れて陸上部の部室に向かう。
 途中、いつものように美佐ちゃんに会う。

美佐: ♪〜
遥: おはよう美佐ちゃん。
美佐: あぁ、先輩っ!
   おはようございますっ♪
遥: 早いなぁ、いつも。
美佐: は、早起きですからっ
遥: うお、もう準備終わってる……。
  一人でやっちゃうなんてすごいな……。
  さすが有能マネージャーだ。
美佐: ゆ、ゆゆゆ、有能だなんて……
   私はその……
遥: さて、アップでもしてくるかな。
美佐: あ、付き合います。
遥: サンキュ。

 ジョギング程度の速度で走り出す。

美佐: 先輩。今日もやるんですか?
   スミスさんとの100メートルレース♪
遥: ちゃんとスミス・ウェッソンか、
  あるいは本名の佐藤で呼ばないと怒られるぞ?
美佐: 長いんですよ〜……
遥: そりゃわかるけど。
  本名で呼べば?
美佐: それだと、何回も呼ばないと気づいてもらえなくて……
遥: そうなんだ……
美佐: ……変わった人ですよね。やっぱり。
遥: ここ最近、その言葉ばかり聞いてるような気がする。
美佐: あ、それで、今日もやるんですか?
遥: やる。
美佐: そうですか。
   今日は何でしょうね……楽しみです。

 次第に他の陸上部員も集まり、朝練が始まる。

 …………。

美佐: せんぱーいっ!ラスト一周ですっ!
遥: はっ……はっ……

 いつものように、練習をこなす。

遥: あ〜……あっつぅ……
美佐: せんぱい、お疲れ様です。
遥: ありがとう、美佐ちゃん。
  どんどん暑くなるなぁ……
美佐: そうですね……夏が過ぎたのに、また暑くなるんですよね?
遥: そうなんだよ。しかも、一波より二波の方が暑いんだ。
美佐: うわぁ……
遥: 美佐ちゃんは今年引っ越してきたばかりなんだろ?
  初めてはきついぞー?
美佐: 辛いですね〜……
部長: さあみんな。集合して。
美佐: あ、いけないっ!
   みなさーん!集合でーすっっ!!

 部長と美佐ちゃんの掛け声で、朝練が終了。
 片付けているところにスミス・ウェッソンが走ってきた。

S&W: よぅしっ!行くぜ遥っ!
    今日こそは負けんぞ……ふはははははっ!!

部員達: …………
遥: みんなあきれてるぞ、お前に。
S&W: 良いか!
     俺が勝ったら今度こそ俺のありがたい話を聞いてもらうからな?
遥: わかったわかった。
  こっちが勝ったら、今日は何だ?
S&W: 今日は三星堂のショートケーキだっ!
美佐: うわぁ〜っ♪ここのケーキはおいしいんですよねぇ〜♪
遥: また学校にこんなものを持ってきて……
美佐: では、いつものように判定は私が……
   二人ともいいですか?
遥: こっちは疲れてるんだけど。
S&W: 俺だって疲れている。五分だ。
美佐: では、よーい……

 ――ピーーっ!!

 笛の音が聞こえると同時に走り出す。
 体ひとつ分リードした。
 真面目に走らないとスミス・ウェッソンには勝てないからな……。

S&W: りゃあああぁぁぁっ!!!
遥: うわやばっ!!?

 気合十分のスミス・ウェッソンの声が後ろの近いところから聞こえる。
 その声を何とか振り切って、ゴールまでたどり着いた。

美佐: やりました先輩っ!!
遥: はぁ、はぁ、はぁっ……
S&W: ぐぅ〜っ!また負けたぁぁぁっ!!
遥: はぁっ……やっぱり銃が無ければ負けてるな……。
S&W: くぅ……まだまだ練習が足りないということか……。
遥: ……だから、ジャージのポケットに入っている、
  そのバカ重い銃を置いて走ればいいだろう……。
S&W: バカなっ!?この俺の”魂”を離したら、逆に力が出ないぞ。

 すごい(というかバカ)銃マニアのこいつは、
 いつでもどこでもモデルガンを持ち歩いているのだ。
 弾こそ出ないが、本物そっくりに重量等も調整している本物のマニア(バカ)だ。

遥: だから公式のバスケの試合はいつもより弱いのか……。
美佐: 三星堂のショートケーキ〜♪
   佐藤先輩、有難うございます♪
遥: 銃が無ければ、俺より早いのに……
S&W: 銃を持ちながらでないと、実践では役に立たないだろう?
遥: 軍隊にでも入る気か貴様は。
美佐: 佐藤先輩〜?
S&W: 軍隊もいいが、警察の射撃班に入るのも捨てがたいなぁ。
遥: 本気だったのか……。
美佐: …………スミス先輩?
S&W: 略すなそこっ!
   スミス&ウェッソンだっ!

美佐: ひゃっ!?
遥: …………お前、時々自分の本名忘れてないか?

 これが無ければスポーツ万能だし、いい奴なんだけど。

S&W: 次こそはっ!
   次こそはお前に勝って
   
スミス&ウェッソンのすばらしさを
   小一時間語ってやるーっ!

遥: あ……。
  行ってしまった……
美佐: せんぱ〜い……
   ショートケーキ……

 美佐ちゃんが、先ほどの勝負で獲得したショートケーキを持って、俺のところに来た。

遥: あはは、いいよ。
美佐: わぁ〜♪有難うございます〜っ♪
   あ……
   先輩も、その……いっしょ……
遥: どうした?
美佐: あっ!ななな何でもっ!!
遥: ほら、着替えないと授業に間に合わないぞ?
美佐: あ、はいっ!

 

キョウ: ハル、おはよっ。
遥: おはようキョウ。
キョウ: 朝練いつも大変だね……。
遥: そうでもないぞ?
  朝練は軽めだし。
キョウ: あれで軽めなんだ……。

 教室に着くと、大体の生徒が集まっていた。
 ちなみにキョウも同じクラスだ。

遥: 放課後の練習に比べれば、相当軽めだぞ。
キョウ: あ〜……なるほどね。
遥: あ、そうだキョウ。
キョウ: なに?
遥: キョウって確か、俺の旧姓って知ってるよな?
キョウ: 旧姓?
    橘、のこと?
遥: 誰か友達とかに、そのことを話したことってある?
キョウ: え?
    いや、無いけど……
遥: そうか……じゃあやっぱ……
  う〜ん……
キョウ: ?
S&W: よう、ご両人。
キョウ: あ、SW(エスダブ)。
    おはよっ。
S&W: おはよう今日子。
    お前の相方は何を悩んでいるんだ?
キョウ: さぁ……
遥: はぁ……面倒だからいいや。
男子生徒: 遥……。
遥: あ、おはよう野口。
野口: ……遥と今日子さんって、
   裸を見せ合うような仲だったんだな……

遥+キョウ: わあっ!!?
    なななななっ!
    
何をいきなりっ!!
野口: いや、昨日今日子さんから、
   ”兄弟の裸を見ても興奮しなかった”って聞いたから……
   それってつまり……
遥: キョウーっ!!!
キョウ: うわっ!深みにはまるってこういう意味っ?!
野口: な、なんだ、違うのか。
   そうだな、幾らお前らでも、そこまでおかしくは無いよな。
遥: …………
キョウ: …………(やっぱりおかしいのかな、あの行動……)

 チャイムがなり、それぞれ席についていく。
 そして月曜日初めの授業が始まった。

 …………。
 …………。

 そして昼休み。

キョウ: ええっ!遥がお弁当っ!!?
遥: ああ。アイリスが作ってくれた。
S&W: うおっ、すげーな遥。
    結構料理上手なんだな。
遥: ……まあな。
  といっても、弁当組の友達もあんまいないから、
  キョウ達と食堂で食べるよ。
キョウ: じゃあ行こっか?

 三人で教室を出る。
 この後食堂で、美佐ちゃんと合流するのがいつもと同じパターンだ。

キョウ: SWー。私達ってやっぱおかしいのかな?
遥: なんだ?いつもは全く気にして無いくせに。
S&W: 残念ながら、通常とは言えないな。
遥: やはりそうらしい。
  まあ、言わせておけ。
キョウ: なんかムカつく。
S&W: まあ、しかしだ。
    お前達の関係よりおかしいものもあるだろう。ここには。

 スミス・ウェッソンが前を指差す。

遥: 待てっ!あれはレベルが500倍は上だっ!!
S&W: そうか?同じ系統だろ?
キョウ: あれと一緒なんだ、私達……
遥: やっぱ自重しようぜ、キョウ……

 前を歩く生徒が気づいて俺のほうに走ってきた。

彩乃: 遥せんぱいっ♪
   おはようございますっ。

遥: よう彩乃(あやの)。咲姫乃(さきの)先輩は?
彩乃: これから迎えに行くところなのですよ。
キョウ: これといっしょかぁ……
彩乃: 今日子先輩?なんですか?
キョウ: いや、すごーくショック受けてただけだから……
遥: おいおい……
S&W: 咲姫乃先輩がいないと普通だな。
彩乃: 何とでも言うがいいです。
   あ、でもSWには言われたくないです。それ。
S&W: エスダブって略して言うなと言っているだろう……
彩乃: 長〜い……
   それに、今日子先輩だってSWって呼んでるじゃないですか。
S&W: 今日子はスミス&ウェッソンの理解者だからいいんだよ。
遥: そ、そうだったのかキョウ……
  お前も銃器マニアだったんだな……。
  うわ、すごく似合う気がする。
キョウ: (ただてきとーに相槌打ってただけだったんだけどね)
彩乃: あっ!お姉さまっ♪
遥: え、どこ?
彩乃: お姉さまぁぁぁ〜っ♪

 言うが早いが、一目散に駆けていく。はやっ……
 かなり遠くの方で、彩乃が誰かに飛びついた。

遥: …………行こうか。
キョウ: ……そうね。

 疲れたので、無視して食堂に向かうことにした。

 …………。

 

遥: うわぁ、今日も込んでるなぁ……
キョウ: いつものことじゃない。ここは。
遥: そりゃそうだけど。
S&W: じゃあ遥は先に柿崎さんの所に行ってろ。
遥: 弁当は楽だな……。
遥: さて、美佐ちゃんは……
  お、いた。
美佐: あ、せんぱいっ。
遥: 今日も席取っててくれてサンキュな。
美佐: いえいえ。
遥: 美佐ちゃんのクラスが一番近いからなぁ、食堂に。
美佐: あははは……おかげで楽ですよ。
   あ、あれ?
   先輩、お弁当ですか?
遥: ああ、うん。
  えーっと……まあこれからはちょくちょくつくろうかなと……
キョウ: きたよー。
遥: おう。
美佐: あ、今日子先輩。おはようございます。
キョウ: 美佐ちゃん、おはよう。
    ホントにありがとね。席とって置いてもらって。
美佐: いえ、これくらいなら……
S&W: さて、遥の弁当を拝見だな。
美佐: 先輩って、料理が上手そうですよね。
キョウ: (ねぇ……)

 ぐいっとキョウに引っ張られる。

キョウ: (アイリスさんの事、教えてないの?)
遥: (アホかっ!キョウとの関係だけであんなに騒がれてるのに、
   これ以上火種作ってどうするよ……)
キョウ: (あぁ、そうか……。確実に勘違いされそうだもんね)
美佐: わくわくします……。

 あけてみると、かなり綺麗な弁当だった。

美佐: うわぁ〜……おいしそうですね。
   先輩すごいです……。
S&W: ホントにすげー……
キョウ: うわぁ、料理も上手いんだあの子……。

 早速食べてみる。

遥: 美味い。
美佐: (じー……)
遥: ……美佐ちゃんも食べるか?
美佐: わあっ!ちょっと頂いてもいいですか?
遥: おう。
美佐: わ……先輩、このお弁当すごくおいしいですよっ!
キョウ: どれどれぇ?
    ふむふむ……やるわねこれは……
遥: ホントに不思議だ……
S&W: 何が不思議なんだ……?
美佐: 本当においしいですねっ!
   先輩がこんなに料理が上手だなんて、
   知りませんでした。
キョウ: お弁当っていいよねぇ〜。手作りで、愛情こもってて♪
S&W: 食堂の食事だって手作りだぞ。
キョウ: 妙なところだけ突っ込まないのっ!
美佐: 愛情……ですか。
キョウ: そう、愛よっ!大事なのはっ!
S&W: 食堂にも愛はあるぞ。
キョウ: 度合いと対象が格段に違うのっ!
   料理のおいしさの違いが
   
幸せの決定的差では無いことを、
   今度調理実習の時にでも教えてあげるわ。

美佐: 幸せ……
   せんぱいも、その、やっぱり誰かに作ってもらうと嬉しいですか?
遥: そりゃあもちろん。

 というか、今すごく嬉しいし。

美佐: そ、そうですよねっ!
遥: ?
S&W: そういえば、なんで今日子は弁当じゃないんだ?
    今日子、料理得意だろ?
キョウ: いや、まあそうだけど……
    自分のために作るのって、味気ないというかなんというか……
    準備も大変だしね。
S&W: ふ〜ん……なるほど。

 アイリスが作ってくれた弁当はすぐになくなり、雑談に入る。

S&W: これから暑くなるんだよなぁ……
遥: そうなんだよ、地獄だ。
美佐: うわぁ……
遥: 夏休みほしいよな。
美佐: そ、そんなに暑いんですかっ!?
キョウ: そうそう……特に女子はさらに地獄……
    スカートがくっついてうっとおしいったらありゃしない……
美佐: それは大変そうです……
   そんなに暑いんですか……
   う〜ん……
遥: どうした?
美佐: 長距離は辛いですね……
遥: まあ、寒いときよりかは辛いけど。
  みんな一緒だから、あんまりかわらないだろ。
S&W: さて……そろそろ行くぞ。
遥: なんだ、もう時間か。
美佐: では先輩っ。また放課後に!
遥: はいよ。

 そのまま美佐ちゃんと別れる。

遥: なんか嬉しそうにしてたけど……なんかいいことあったんだろうか……
キョウ: う〜ん、たぶん……明日あたりになればわかると思うよ。
遥: は?
キョウ: さ、はやくもどろっ。
S&W: おっと……
キョウ: どうしたの?
    あ。発情二人組。

咲姫乃: 今日子様、おはようございます。
遥: 何気にひどいっすねあんた……
咲姫乃: 遥様も、おはようございます。
遥: あ、おはようございます……
S&W: なんでこんなところで会うんだよ……
    教室と反対側じゃあ……
彩乃: お姉さまとは、いつも屋上に上る階段辺りで、お弁当を食べていますから♪
遥: へ〜、そうなんだ。
彩乃: 二人っきりで……ふふふ……
遥: あ、あぶねー……
S&W: しかし屋上ねぇ……。
    誰かいそうな気もするけど?
遥: …………前はいたんだろ、きっと。
キョウ: だろうね。
咲姫乃: そうですね。
    皆さんどうしてかいなくなってしまいまして……
彩乃: きっと私達の邪魔をしたら悪いと思ったんですよ、お姉さま。
    一般市民にしてはなかなかいい心がけです。
咲姫乃: あ、そう言うことですか……
    気を使わなくてもいいのですが。
彩乃: そうですよねー♪
  私達は全く持って気にしないのに♪
  いつでもどこでもLOVE’Nお姉さまです♪

遥: (こっちが気にするよ……)
彩乃: あ、でも邪魔しに来たら殺します。
遥: …………。
咲姫乃: ではまた。
遥: あ、ああ……
彩乃: お姉さま、また放課後に……
   ああ、いっちゃた……
   はぁ……放課後まで待てないよぉ……

キョウ: …………。
    おっと、呆れてる場合じゃなかったね。
    ほら、いこっ。
遥: そうだった。

 

 …………。

 そして放課後。

キョウ: おわったー……
    ってあれ?SWは?
遥: もう部活に行ったぞ。
キョウ: はやい……
    部活と銃に関してはすごいのにねー……
遥: そだな。
キョウ: 今日も遥は部活だよね?
    頑張ってね。
遥: おーし……今日もやるぞっ!
キョウ: じゃねっ♪
遥: ああ、また明日な。

 今日子と別れてグラウンド近くにある部室に向かった。


 …………。

 部室に行くと、すでに一年の子達が準備をしていた。

遥: おはよー坂上。
坂上: ああ、おはようございます先輩〜♪
遥: 美佐ちゃんは?
坂上: 美佐は先生と一緒にメニュー作りです。
遥: ああ、そうなのか……
坂上: まったく美佐はすごいですよねぇ……
   陸上のことなら美佐に聞けーってぐらい詳しいですし。
   同じマネージャーとして尊敬しますね。
遥: そうだよなぁ……。
  まあ、だから練習メニューを一緒に考えてる訳か。
坂上: そうですね。
   あ、当然長距離の練習メニューを考えるのが
   一番得意みたいですけど。
遥: だから長距離専門のマネージャーなんだろ?
坂上: そういうことです。
   はぁ、遥先輩は幸せ者ですね……
遥: そうだなぁ。
  優秀な美佐ちゃんをひとりじめなわけだしな。

 長距離選手は俺だけだったり。
 熱いからな、このあたりは。
 誰もやりたがらないようだ。

坂上: …………先輩わざとやってませんか?
遥: 何が?
美佐: せんぱーいっ♪
遥: お、美佐ちゃん。
美佐: すみません。遅くなりましたー。
坂上: メニューの方はどう?
美佐: あ、坂上さん。
   短距離の方もきつめのメニューだったよ。
坂上: 暑い中でも容赦ないなー、先生は。
遥: 長距離の方は?
美佐: 暑さになれるために、走りこみが多いです。
遥: うわ……そらきついな……。
美佐: あ、坂上さん。短距離と陸上競技を集めて。
   ミーティングだって。
坂上: はいはい。
遥: じゃあ、俺達は早速練習に行きますか。
美佐: あ、待ってください先輩。
   長距離もミーティングです。
遥: え、いつもは俺と美佐ちゃんしかいないから……
美佐: 新しい子が入ったんですよ。
遥: へぇ……、この暑い中よくやる。
坂上: それは遥先輩に言ってあげたいです。
美佐: というわけで、全員部室に集合です。


 …………。

遥: うっわー……
美佐: 先輩のお望みどおり、
   走り込みを中心としたメニューですよ。
遥: いや、そうはいったけど……
  これ、途中で倒れると思うぞ。
美佐: 10キロ以上のメニューは、
   休みながら行く予定になってますので
   大丈夫です。
遥: 大体10キロ以上なんだけど、このメニュー。
美佐: あ、深雪さんが来ましたね。
深雪: 柿崎さん。これからよろしく。
美佐: うん。長距離はきついけど頑張ろうね。
遥: この子が新しく入った子?
深雪: あ、飯田先輩。うわさはかねがねお聞きしているのです。
   姫といいます。よろしくお願いします。
遥: あ、あぁ……。
美佐: まずは深雪さんの実力を見ます。
   深雪さんのメニューはその後考えますので、
   ひとまずは先輩と同じメニューです。
遥: 同じって……。
  このメニュー、普通の子にやらせたら死ぬぞ。
深雪: 問題はないのです。
遥: へ?
美佐: 最初は先輩もゆっくり目でお願いします。
遥: あ、うん……
  深雪さんは経験者なのか?
深雪: 多少は、ですけど。
遥: そうか。
美佐: じゃあ、そろそろ行きましょうか。

 


遥: ……今までどこの部にいたんだ?
深雪: バレー部です。
遥: 結構走れるんだなー……

 5キロを過ぎた辺りでも、彼女は平然と走っている。
 それを、自転車に乗っている美佐ちゃんが
 感心した顔で見ていた。

美佐: すごいですね深雪さん。
   まだまだ行けそうですね。
遥: そうだな。
美佐: もう少しペースを上げちゃっても大丈夫ですか?
深雪: 問題ないです。
遥: それじゃあ上げるか。

 少しだけ走る速度を上げる。

遥: あ、そうだ。
  姫って苗字だよな?

深雪: そうですよ。おばあちゃんに聞いたら
   すごく珍しいそうです。
遥: 雪を使った名前も、この辺りでは珍しいな。
美佐: そういえば、全く聞きませんね……。
   どうしてなんでしょうか?
遥: これだけ暑けりゃ、雪なんて単語が
  出てこないからじゃないか?

美佐: あ、それは納得です。
遥: 姫かぁ……深雪さんのおばあちゃんとか
  昔はどこかの姫だったりして。
深雪: 飯田先輩。呼び捨てでかまいませんよ。
   柿崎さんも。
美佐: ああ、はい。

 

 …………。

遥: あ〜、今日は結構暑いよな〜。
美佐: そうですね。
   でも、これからもっと暑くなるんですよね?
遥: そうそう。灼熱地獄なんだよ。
美佐: 夏よりも暑くなるなんて、すごいですね……
   まだ信じてないんですが……。
遥: 夏を半そでにならずに乗り切った美佐ちゃんも
  これは無理だろうなぁ……
美佐: あはは、それは大丈夫ですよ先輩。
   私は暑いのには免疫がありますから。
遥: そうかぁ?
  すげー汗かいててあぶなかしかったのは
  覚えてるんだけど。
美佐: 気のせいですよ〜、先輩。
遥: まあ、水だけは飲んどかないと。
美佐: あ、それはそうですね……
遥: 深雪は地元だよな。
  それなら暑いのにも慣れてるだろうけど。
深雪: …………
遥: 深雪?
美佐: あれ、深雪さん。大丈夫ですか?
深雪: ……遥先輩は、すごいですね。
遥: あ、大丈夫か?
深雪: ……話しながら、走るなんて、
   私には、出来ないです……

美佐: ……あ〜……すみません。
   つい、いつもの癖で……
   そうですよね。
   普通話しながら走るなんて辛いですよね。
遥: そうか?
美佐: そうですよ普通〜……
   息が続かないじゃないですか。
遥: そうかな……
美佐: …………
深雪: やはり、先輩は、すごいです。

 さらに少し走って、休憩を取ることになった。

遥: ふぅ〜……水が上手い。
深雪: うわぁ……奇奇怪怪ですっ
遥: は?
深雪: そんなに水を飲んで……
   帰りは大丈夫なんですか?
遥: え…………
美佐: ほら先輩。これが普通なんです。
遥: そうか、これおかしいのか……
深雪: おなか痛くならないのですか?
遥: うん、全く。
美佐: 痛くなりますよね。
深雪: 普通の人間ですから。
遥: ……ひどいな。
美佐: 深雪さんは大丈夫ですか?
深雪: はい。まだ大丈夫です。
美佐: 深雪さんもすごいですねー。
深雪: 10キロ程度なら……
美佐: すごいです……
遥: よし、じゃあ戻るぞ。
美佐: あ、先輩。
   帰りの10キロは全力でお願いします。
遥: え、全力って……
美佐: 大丈夫です。
   深雪さんには私がついていきますので。
遥: あ、そう言うことなら。
美佐: 深雪さんも、頑張ってついていってくださいね。
深雪: もちろん、全力です。
美佐: じゃ、行きましょうか。
遥: よし、行くぞ。
深雪: はい。
遥: せーのっ!

 とりあえず少し抑え目で走る。

遥: ……このぐらいでどうかな。
深雪: ちょっと早いですけどこれくらいなら……
遥: あー、じゃあ落とした方がいいかも。
深雪: 大丈夫です。

 だんだんと俺のペースに持っていく。

深雪: ……っ……っ
遥: じゃあ美佐ちゃん。先行くぞ。
美佐: はい。気をつけてくださいね。
遥: わかってるわかってる。

 さらにペースを上げて、
 いつもの俺のペースに持っていく。
 あっという間に後ろとの距離が開いた。

遥: そりゃ、男子と女子なわけだし当たり前なんだけど。

 しばらくは無言で走るが、何かむなしくなってくる。

遥: ……話しながら走るのってへんかなぁ……
  あ、独り言は確実に変だけど。


遥: ……何か考えて走るか。

 気になっていることはひとつ。
 アイリスは魚か否か。
 考えるだけ無駄なような気もするが、
 どうしても気になってしまう。
 いや、気にならない方がおかしいぞ、こんな超常現象……

遥: 俺は実際のところ、魚だと思ってるな。

 彼女は、魚しか知らない俺のことを知っているわけだし。
 ……まぁ俺の記憶の方も断片的になってるから信頼性は無いけど。
 でもそれだけでなく、あの不思議な朱玉とか……

遥: う〜ん……難しい。
  あの朱玉は説明がつかん。

 かなり悔しいが、神様がいるとしか思えない。

遥: 神がいたんなら……どうして……

 アイリスに起こった奇跡の半分ぐらいを回してほしいもんだ。

遥: でもあの朱玉……
  なーんか見たことあるような気が……

 ……あ、似たようなビー玉見ただけか。

遥: ……さて、そろそろラストスパートといきますか。
  もう学校も見えてきたし。

 

 …………。

深雪: はぁ〜〜……
遥: お、帰ってきた。
美佐: やっぱり最後まで持ちませんでしたね。
深雪: そう、ですね……はぁ〜……
美佐: でも深雪さんはすごいですね。
   それは先輩と比べると遅れてますけど、
   女子の中ではいいところまで行ってると思いますよ。
深雪: はぁ……当然です……
遥: おつかれさん。
深雪: さすが遥先輩。うわさどおりでした。
遥: そんなにうわさになってるのか俺は。
美佐: そうですよ。先輩はすごいんですから。
深雪: はい。
   噂は流言飛語か針小棒大だと思っていたんですが、違いました。
遥: ??
深雪: どうかしましたか?
遥: いや、ごめん。勉強不足で、深雪が言っていることが理解できない……
深雪: あ、すみません。
   噂は嘘か過大評価だと思っていたんです。
遥: へ、へぇ……。


 その後全員でストレッチ体操をして本日は終了。
 制服に着替えて帰る準備も完了。

美佐: あ、先輩。
   お疲れ様です。
遥: あ、美佐ちゃんおつかれ。
  まだ片付け残ってたんだ。
美佐: あ、はい。
   もう終わって、今から着替えるところです。
遥: そうか。
  じゃあ待ってるから一緒に帰ろうぜ。
美佐: えっ!?い、いいんですか?
   ま、待っててくださいね先輩っ!
   急いで着替えてきますからーっ!!

遥: あ……行っちゃった……
  そんなに急がなくてもいいのに。
深雪: 先輩も罪なお方ですね。
坂上: 全くです。
遥: な、何だよ二人とも……
坂上: 美佐はいい子なのになぁ……
遥: そうだな。いい子だけど。
深雪: でも、一緒に帰るということは
   脈ありなのではないですか?
坂上: どーでしょうね……それは無い様な気がします。
深雪: ……そうですね。
遥: 何の話をしてるんだ?
深雪: なんでもないのです。
坂上: じゃ遥先輩。また明日っ。
遥: あ……。
  なんだったんだ一体……

 しばらく待つと、美佐ちゃんがあわててやってきた。

美佐: お待たせしました先輩っ
遥: そんなに急がなくても良かったのに。
美佐: あはは、では帰りましょう♪


遥: 今日も疲れたな。
美佐: 先輩、ちゃんとストレッチしましたか?
遥: ああ、大丈夫。ばっちりやっといたから。
  それにしても練習メニューちょっときつくない?
美佐: 頑張らないと大会に出られませんよ、先輩。
遥: それは困る。
美佐: 大丈夫ですよ先輩なら。
   頑張りましょうっ。
   そのっ……私と一緒に……
遥: そうだな。美佐ちゃんと一緒なら心強いなー。
美佐: せんぱい……
   はぁ〜……
遥: どうした?
美佐: あ、いえ……
   あ〜……なんで先輩は先輩なんですか〜……
遥: え、そういわれても……美佐ちゃんどうした?
美佐: あ、なんでもないですっ!
   あはは……はぁ……
遥: あ、そういえば20日の
  修学旅行なんだけどさ。
美佐: あ、はい。
遥: 俺のクラスとペア組むのは一年二組らしい。
美佐: えっ!本当ですかっ♪

 卒業旅行に向けての練習らしい修学旅行は一、二年合同。
 一年の一クラスと二年の一クラスがペアを組んで行動する。
 で、俺の一組は、美佐ちゃんのクラスとペアらしいのだ。

美佐: でも、誰から聞いたんですか?
遥: S&Wからの情報だから信頼できるぞー。
美佐: 先輩と一緒……嬉しいです♪
遥: これで当日は一緒に行動出来るな。
美佐: えええっ!!?い、いいんですか!?
遥: いいんですかって……もちろん。
美佐: やった……っ♪
遥: あ、でも美佐ちゃんにも友達がいるだろうし……
  無理にとは言わないけど。
美佐: い、いえっ!いえいえいえいえっ!!
  是非ご一緒させて下さいっ!

遥: あ、う、うん……
  なんかやけに気合入ってるな……
美佐: 断然楽しみになりましたよ、せんぱい♪
遥: それなら良かったけど……
美佐: あ、先輩。それじゃあまた明日!
遥: ああ、また明日な。

 


遥: ただいまー。
アイリス: お帰りなさいませ。遥様♪
遥: あ……ただいま。
  そっか……
  やっぱり誰かが迎えてくれるのはいいよなぁ……
アイリス: お疲れ様です。
遥: うっわぁ……なんだこの家は。
アイリス: 遥様の家ですけど……
遥: いや、そうじゃなくて……すごく綺麗になってる。
アイリス: あ、お掃除をしましたから。

 リビングに上がると、さらにすごかった。

遥: しかもいいにおいがする。
アイリス: 芳香剤というものを見つけまして……
     勝手に使ってしまったんですが……
遥: すげー……
  大掃除したみたいだ……うっわー……
  アイリスすごいな……
アイリス: 有難うございますっ♪
遥: あ、洗濯のほうは大丈夫だった?
アイリス: あ、はいっ!
     今日は問題なく出来ました……♪
遥: いやぁ……すごいなぁ……
アイリス: あ、お風呂も用意しておきました。
     夕食もすぐに出来ますよ。
遥: 至れり尽くせりだな……いやあ、ありがとうアイリス。
アイリス: 喜んでいただいてよかったです……♪
     あ、お風呂を先にしますか?夕食を先にしましょうか?
遥: あ……そうだな……
  ここはやっぱり王道で、食べるのはアイリスだーとか――
アイリス: えええええっっっ!!!?
   わ、わたわた、私ですかっ!?

    えっと、あの、わ……

遥: いや、言ってみただけなんだけど……
アイリス: そ、それはいけません、あの、あぁ〜でも……
遥: アイリスー。冗談だよー。
アイリス: あっ!え、あ……冗談ですか……
     はぁ〜、ビックリしました……
遥: ……面白いなーアイリス。
アイリス: うぅ……ひどいです……
遥: 汗かいてるし、先に風呂に入るよ。
アイリス: そうですか。わかりました。

 荷物を置いて、脱衣所に入る。
 ……あれ、隠しておいたトランクスがなくなってるんだけど……
 …………後でアイリスに言っておこう……

遥: うわ……

 浴槽とか壁とかピカピカだ……
 よくもまあここまで……

遥: 綺麗好きなんだな、きっと。
  きもちいぃ〜……
  やっぱ部活の後はいいですなぁ……

 十分にくつろいでから上がる

アイリス: あ……遥様。
遥: 綺麗になっててきもちよかったー。
アイリス:それは良かったです。
     あ、夕食の支度が出来てますよ。
遥: おう。

 椅子に座って手を合わせる。

遥: いっただっきまーす!
アイリス: いただきます♪
遥: うん、うまいー!
アイリス: おいしいです♪
遥: いやあ、アイリスが来てくれてよかったなぁ〜。
  ご飯作るの上手いし、綺麗好きだし、可愛いし。
アイリス: は、遥様〜、ほめすぎですよ〜……
     でも、お役に立てて本当に嬉しいです♪
遥: しかも良い子だしな〜……
  あ、真面目においしいな……

 煮っ転がしとかすごくおいしい。

遥: あ、ちゃんと一人で買い物行けたか?

 なんかちょっとの事でも気になってしまうのは
 親心というものだろうか。
 いや、たぶん違うと思う。

アイリス: あ……もちろん行ってきたんですけど……
     ぐすっ……
遥: ど、どうしたアイリスっ!!
 何かあったのか!?

アイリス: 生魚というところに行ったら、お仲間さんがいっぱい……
遥: あ〜……
  やっぱり魚はダメなんだ。
アイリス: あぅぅ……それだけは無理ですよー……
遥: そうだろうなぁ……
  まあ、生魚は避けて通りなよ……
アイリス: はい……
遥: …………。
  今度熊肉でも買ってくる?
アイリス: 遥様、それはサケです……
遥: あ、そうか……
アイリス: 野菜はおいしいです。
遥: ……でも魚の餌って魚なんじゃないのかな……
アイリス: お仲間さんだと思うと食べられません……
遥: あははは……
アイリス: 一人で外に出るのは、やっぱり怖いです。
遥: う〜ん……それは慣れるしかないからなぁ……
アイリス: はぁ、ごちそうさまでした。
遥: あ、洗い物は俺がやるから、
  アイリスはお風呂に入ってきなよ。
アイリス: あ、でも……
遥: いいからいいからっ。
アイリス: わ、わかりました……
     ごめんなさい遥様……
遥: アイリス〜……こういう時謝るのはやめようぜ。
アイリス: あ、ごめんなさい。
     あ、え〜っと……有難うございます……♪
遥: それでよーし。
アイリス: それではお願いします。遥様。
遥: …………。
  さて、やりますか。

 ちゃっちゃと洗い物を片付ける。

遥: 終了ー。
  テレビ見るぜー。

 ……あれ、なんかきこえる。

アイリス: ……る……ま〜……
遥: アイリスか?

 脱衣所に向かう。

遥: アイリス〜?
アイリス: あ、遥様。
     石鹸とシャンプーがなくなってしまいまして……
遥: ああ、うん。
  ちょっとまってね……
  ……あ、あった。

 石鹸とシャンプーをもって、浴場のドアの前まで来る。

遥: もってきたよー。
アイリス: あ、有難うございます。
遥: えっと、ここ置いとくから……

 ってすごく動揺してるな俺……

アイリス: 有難うございます♪
遥: …………
アイリス: ♪〜
遥: はっ……

 洗濯籠の中にアイリスの服が……

遥: ってまんまヘンタイだぞ遥よ……

 大体この服だって俺と一緒に買い物に行って買ってきた奴だし……
 いや、そういうことが問題じゃないぞ。
 そうとも!
 昔の二段スク水や伝説の白スクよりも、
 六年間着てくたびれたスク水の方が優れているーっ!
 って偉い人が言っていた様な言っていなかった様な……

遥: って言うか意味わかんねーっ!!!

 脱衣所からダッシュでリビングに戻る。

遥: 意味わかんない……
アイリス: 遥さまぁぁぁ〜〜っ!?
遥: え?
 うわぁっ!!?

 いきなり脱衣所から、
 タオルを巻いたびしょびしょのアイリスが飛び出してきた。

アイリス: ど、どうしたんですか遥様っ!
遥: いやっ!その格好っ!格好ーっ!!
アイリス: え?あの!
     先ほど叫び声が聞こえたので、
     遥様に何かあったのかと……
遥: いや、何も無かったです……
アイリス: あ、そ、そうですか……
     …。
     あわわわわっ!!!
遥: 早く脱衣所に戻れーっ!!
アイリス: ははは、はいーっ!!

 …………。
 アイリス、ごめん。

 

 

遥: アイリス?
アイリス: …………。
遥: おーい。
アイリス: あ、遥様……
遥: また外を見てるのか?
アイリス: はい……
遥: 雨は降ってないけど……
アイリス: 今日はなんとなく、です。
     あはは……
遥: そっか。
アイリス: ふぅ……
遥: ほらアイリス。寝るぞ。
アイリス: あ、はいっ♪

 一緒に部屋に入って布団をかぶる。

アイリス: はぁ〜……
     遥様と布団を並べていると、とても安心します……
遥: あそこまで泣くとは思わなくて……
アイリス: ご、ごめんなさいっ……
     一人だとすごく寂しくて……
遥: じゃ、おやすみアイリス。
アイリス: おやすみなさい。遥様。

 …………。

>つづくー。

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