The Fish Story
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9月16日(日)
…………
アイリス: 遥様〜?
遥: ぐぅ……
アイリス: あ……そうでした……
日曜日は学校がないのですね。
アイリス: …………う〜ん……
こういうときは起こさない方がいいのでしょうか……
う〜ん……
…………
……
遥: ……んん〜……ふぁぁ……
…………
起き上がって窓の外を見る。
見事なまでの快晴だ。お日様もいつもよりちょっと高めに上っているらしい。
遥: おおっ!まだ12時とはっ!
進歩したなぁ俺……
…………休みでも、もう少し早く起きれるよう努力しよう……
遥: ……今日はアイリス、起こしてくれなかったんだな。
ちょっと残念。
遥: 着替えて昼飯だな。
ちゃっちゃか着替えて部屋を出る。
アイリスは……と。
アイリス: あ、遥様。おはようございます。
起こした方が宜しかったですか?
遥: う〜ん……そうだなぁ。
今まで休みの日は寝てばかりだったから……
これを機会に早く起こしてもらえるなら嬉しいかも。
アイリス: では、これからは起こしますね♪
遥: うん。
で、なにやってるのさ、アイリス。
アイリス: あ、洗濯をしようと思ったのですが……
この使い方がぜんぜんわからなくて……
遥: ああ、これはここを押すと自動でやってくれるんだ。
アイリス: あ、そんなところにボタンがあったのですね〜……
気が付きませんでした。
遥: 洗濯してくれたんだ。
アイリス: はい。いっぱい溜まっていた様でしたので。
遥: そうそう、一人だとついつい溜めちゃって……
一気に洗濯するのが習慣になってるんだよ。
アイリス: あわわっ!決まっていたんですね……
勝手に洗濯してしまってごめんなさいっ。
遥: それはどちらかというと悪い習慣だから良いんだよ。ありがとうアイリス。
アイリス: あ……はいっ♪
遥: あ、あれ?掃除もしてくれたの?
アイリス: ええ。目に見えるところ中心ですがっ。
遥: 掃除機は普通に使えるの?
アイリス: あ、はい。
遥: 洗濯機はだめで掃除機はOKって……
アイリス: あ、そうですね。不思議です。
遥: まるで他人事みたいに……
アイリス: あ、お食事、用意しますね。
遥: あ、ごめん。それじゃあお願いするよ。お腹すいた……
アイリス: はいっ!すぐに仕度しますね♪
そういうと嬉しそうにリビングの方に駆けていく。
遥: …………
まぁ……アイリスが不明確な存在でも……
遥: すごくにぎやかで楽しいから……いいか。
俺もアイリスの後を追って、リビングに向かった。
アイリス: いただきます。
遥: いただきまーす。
アイリス: ……いかがですか?
遥: 美味すぎっ。
アイリス: よかったです……♪
遥: うむぅ、それと同時にちょっと悔しいぞ。
アイリス: 遥様もご自分でお料理を……?
遥: うん。朝と夜は自分で作っていたんだけど……
これがまたおいしくなくて。
アイリスが来てくれてすごく助かった点・その1だな。
アイリス: 褒めて頂けると嬉しいです。
遥: あ、そうだ。
朝から掃除とか洗濯とかしてもらってありがとう。
アイリス: いえっ!お役に立つために来たのですからっ!
遥: でもありがとう。
アイリス: ――――っ。。
遥: ……(やっぱ不思議な子だな……)
浮いてるって言うか……まあ魚だし。
遥: ご馳走様でした。
アイリス: ご馳走様でした。
遥: ふぅ……
食器を片付ける。
アイリス: あ、私がやりますので座っていてください。
遥: あ……いいよ、俺が……
アイリス: あ……
遥: ……わかった。お願いするよ。
アイリス: はいっ♪
嬉しそうに食器を持っていくアイリス。
ここで俺が引かないと、また取り合いになりそうだしな……
俺はソファーに座ると、テレビをつけた。
遥: ……う〜ん……。また誘拐かぁ……
物騒だなぁ……
……ちょっと気になったのでアイリスの方を見る。
アイリス: っと。
遥: ……危なっかしいけど、だいじょう――
アイリス: あっ!
遥: おっ!
――パリンッ!
アイリス: あわわっ!!ど、どうしましょうっ!?
遥: アイリス!!?
アイリス: は、遥様……
遥: 怪我は指だけ?
アイリス: は、はい……
遥: ほら、水で洗って。
アイリス: で、でもお皿がっ!!
遥: こっちは俺がやるから。ほら。
アイリス: ご、ごめんなさい……
割ってしまった皿を慎重に片付けてから、救急箱を持ってくる。
遥: 大丈夫?アイリス。
アイリス: ぅぅ……ごめんなさい……
遥: よかった。あんまり深くない。
手早く消毒して、絆創膏を貼る。
遥: これでよし……と。
アイリス: あぁ……遥様、本当にごめんなさい……
遥: アイリスがたいした怪我をしてなかったからよかったよ。
アイリス: 遥様……ごめんなさい……
遥: ……血は赤いんだ……
アイリス: へっ?
遥: あ〜……魚の血も、もともと赤かぁ……
なんか別の色だったら完璧に信じてるのに……
アイリス: えっと……ごめんなさい……
遥: はっ!?いやごめんごめん、変な事言って。
アイリスが誤る必要はないよ。
アイリス: あ、は、はいっ。。
遥: 手、大丈夫?
食器は俺がやるから、ソファーに座っていてよ。
アイリス: は、はい。
アイリスをソファーに座らせてから、食器ちゃちゃっと片付けた。
アイリス: はぁ〜……
遥: そんなに気にしなくても大丈夫だよ、アイリス。
誰にも不得意な物はあるって。
アイリス: ごめんなさい……
遥: …………
ところでさ、何か自分のことで覚えていることってない?
アイリス: え?
え〜……そうですね……何も……
遥: そうか〜……
アイリス: あ!雨の中を走っていたのは覚えていますっ♪
遥: …………
アイリス: あぅっ!?ごめんなさいー……
遥: う〜ん。。
俺的にはすでに、アイリスが魚かどうかよりも、どこから来たのかが気になっていた。
遥: アイリスがどこから来たのか……
何か手がかりになるものはないかな……
アイリス: あ、私が来ていた服は……
遥: あ、白衣か……
そういえば、雨が降っているのにもかかわらず
白衣しか身に着けてなかったんだよな……
アイリス: それ以外は何も……
遥: 白衣といえば……病院かなやっぱり……
アイリス: これですよね。
昨日洗濯して乾かした白衣を、アイリスが持ってくる。
アイリス: あと、白衣についていたプレート……
遥: プレートっ!?そんなものあったなんて初耳なんですけど……
アイリス: 掃除をしていたら、玄関の前に落ちていました。
おそらく白衣についていたんだと思います。
遥: ……山田。
アイリス: わかりますか??
遥: わからないよ……
アイリス: そうですか……
遥: まてよ、病院以外でも白衣はあるよな……
歯科医とか獣医とか保険医とかってどっちにしても全部医者だよっ!
アイリス: お医者さん以外……むむむむ……
遥: ま、医者系が有力だよな。
で、山田さん(女性用の白衣だったから女の人)の白衣を引っぺがしてきたと。
アイリス: うわわっ!そんな事してませんよ〜っ!
置いてあった服がそれしか……
……あ?
遥: どうしたの?
アイリス: 少し思い出しましたっ♪
いろんなところを探したんですけど、
これしか見当たらなかったんです。
遥: ふぅん……
……まあ、少しずつ思い出せるかもしれないな……
アイリス: そうですね。がんばりますっ!
遥: 頑張ってどうにかなるもんじゃないと思いますが……
アイリス: あ、そうですね。
遥: いろいろ聞いて良いかな。
……アイリスって何歳?
今度は容姿について気になり始めた。
アイリス: あ、はい。えっと……さぁ……
遥: ま、そりゃそうか……
見た目俺よりかは上かな……?
19……といった所だろう。
アイリス: そうなんですか……
遥: 身長は?
アイリス: ……さぁ……
遥: 見た目俺と同じぐらいだな。
アイリス: あ、そうですね。
遥: 体重は?
アイリス: 50キロです。
遥: …………何で体重だけ……
アイリス: え?あ、本当です。
遥: 頼むから自分にビックリしないでくれ……
アイリス: は、はい。。
遥: …………ふっふっふ。
アイリス: 遥様?
遥: ……スリーサイズは?
アイリス: わっ!?
あわわわ……それは……知らないです。
遥: そうか、わからないか〜。
じゃあ測ろうっ!今測ろうっ!
アイリス: え、えっと、遥様……
遥: なんだアイリスっ!ご主人様のお願いが聞けないのかーっ!?
アイリス: あ、あうぅ……っ。わかりましたっ!
は、恥ずかしくないっ……こんじょ〜〜っ!!(ガバーッ!!)
遥: すとーっぷ。
…………はぁぁ〜……冗談だから脱がんでええ。
アイリスが服に手をかけたまま固まっている。
次第に涙目になっていく。
アイリス: ひどいですご主人様……(ぐっすん)
遥: どこまで出来るか試しに。
もう少し自我を持った方が良いぞ、アイリス……
アイリス: ご、ご主人様のお願いですから頑張ったのに……
遥: ごめんごめん。俺が悪かったよ。
アイリス: うぅ……
遥: なんかどーも……不思議少女降臨っ!って感じがしないんだよな……
アイリス: そ、そういわれましても……
遥: 尻尾とか耳とかないのか……
アイリス: 残念ながら……
遥: 超能力ですごいことが出来るとかそういうのは……
アイリス: えっと……ごめんなさい……
遥: じゃあ、
「ビームコーティングはお前だけのものじゃないんだよッ!!!!」とか
「やっぱり……眠りながら歩くのって……危険なんでしょうか……」とか
「助かったんじゃないさ……生きようとしたんだ。」とか
不思議発言をボロボロだすとかそういうのは……
アイリス: 期待にこたえられるかわかりませんが頑張りますっ!!
遥: いや、頑張んなくていい……
アイリス: ガクリ。
遥: まあ、これ以上不思議なことがあったら、アイリスの言う神様も大変か……
アイリス: 神様……あっ!!
そういえばもらったものがあったのです。
遥: なにっ!?
アイリス: これです。遥様。
上着の胸ポケットに手を入れる。
遥: って何でそんなところに入れている……
アイリス: ありましたー
彼女が取り出したのは、ビー玉より少し大きめのガラス玉だった。
不思議な赤色だ……
アイリス: きれいですよね……
遥: ……さっき何も持ってないって言っていなかったかい?
アイリス: あぅぅ……ごめんなさい……
遥: …………
アイリス: ?
遥: 何か出来るのか?それで。
アイリス: あ、ええっとですね……遥様のお願いを少しだけ叶えることが出来るんです。
遥: 俺のお願い……?
アイリス: えっと……たしか。
遥: ……すごい不安なんだが。
アイリス: ためしに何かお願いしてみてください。
ガラス玉を両手で持って、俺の返答を待つ。
遥: といってもなぁ……
…………ふ〜む。じゃあテレビをつけてくれ。
アイリス: リモコンでつけられると思うのですが……??
遥: まぁ、ためしだ。
アイリス: わかりました。では。
アイリスが、目を閉じて祈る。
アイリス: …………
遥: …………
まるで人形みたいだ……アイリスって……
遥: …………ん?
アイリス: テレビ、つきましたよ。
遥: 本当だ、ついてる。
アイリス: すごいですね!
嬉しそうに声をあげるアイリス。
遥: ああ、すごいな。
じゃあお金がほしい、とかいったら出るのかな……?
アイリス: ごめんなさい、自然物以外は生み出せないんです。
ですので、機械などはむりですね……
あと、連続では使うことが出来ないみたいです。
遥: ……じゃあ例えば、誰かの服を脱がせてくれーとか。
アイリス: 遥様……そのようなお願いだけはしないで下さい……
遥: そんな事しないって。言ってみただけ。
そのガラス玉、見せてくれないか?
アイリス: どうぞ。
手にとって見る。普通のガラス玉だ。光が入ると赤く光っているように見えた。
遥: ふ〜ん……神様って本当にいるのかもしれないな……
魚であるアイリスを人間にし、さらに不思議な力を持つ朱玉を与えた人物。
そんな事出来るのは、神様ぐらいなんだと思うし。
俺は、朱玉をアイリスに返す。
アイリス: あ、あの……私も遥様に質問したいことが……
遥: え?ああ、いいけど……
アイリス: 遥様のお父様とお母様をまだお見かけしていないのですが……
遥: ああ、そっか……
父さんも母さんも、今は別のところで暮らしているんだ。
アイリス: えっ!?一人でお住まいだったのですか?
遥: わがまま言って俺だけ、な。
アイリス: そうなのですか……
遥: まあ、そのうち会う機会もあるから。
アイリス: わかりました。
話が一段落したところで、アイリスがお茶を入れてくれた。
アイリス: ?
遥様、音がなっていますが……?
遥: だれか来た……?
あ〜……たぶん知り合いだから俺が出る。
アイリス: はい。
遥: アイリスはメイドさんだぞ。
アイリス: 任せてください♪
立ち上がって玄関に向かう。おそらくキョウだろう。
遥: …………
玄関を開けて、すぐさま右に飛ぶ!
キョウ: ハルゥゥゥゥゥーーー!!
飛び込んできたキョウは照準を失い、前のめりになる!
勢いに耐えられず、そのまま床に激突!
キョウ: あいたた……、ひどいよハル……
遥: いきなり飛び込んでくるのよりかはマシだと思う……
キョウ: ……それもそうかっ。
すぐ立ち上がる。復活が早いな……
遥: 怪我は?
キョウ: あのー……ご自分で避けておいて、それはねえんでないんですかい?
遥: 上がれよ、今日。
キョウ: うん、お邪魔するね。
遥: 紹介しなきゃいけない人がいるんだけど。
キョウ: なに、いきなり。
キョウをリビングに連れて行く。
アイリス: あ、こんにちは。
キョウ: ……お、女の子?
遥: メイドのアイリスだ。
アイリス: アイリスといいます。よろしくお願いします。
キョウ: め、メイドォ!!?
ちょっとハル、ずっとメイドは雇わないとか言ってたのにどうしたの!?
遥: まぁいろいろと……
キョウ: もぅぅ〜……炊事とか洗濯とか掃除とか、
言ってくれれば私がやってあげるのにー……
わざわざお金払う必要ないよ〜……
遥: だからいろいろあったんだって!
それに、ずっと今日に頼むわけにも行かないだろ……
キョウ: むー……私はハルのお願いなら何でも聞いてあげるのに……
遥: その代わり、俺もキョウの願いを何でも聞く。
キョウ: そういうこと♪
でも、それは別にして、家事ぐらいならやってあげるって言ってたのに……
私ってそんなに頼りないかな……相談ぐらいしてくれても……
遥: あ、あぁ悪かったよキョウ……
アイリス: ご、ごめんなさい私のせいで……
キョウ: えっ!あなたは悪くないよー、謝らなくても大丈夫!
悪いのはぜーんぶハルなんだから!
アイリス: あの、ハルというのは……
キョウ: あ、遥のこと。
遥: ……まあ、とりあえず座れ。
キョウ: ……そうね。
……とりあえず座らせる。
アイリス: はい、どうぞ。
キョウ: わっ……ありがとうー。
アイリス: よいしょ……
遥: ふぅ……
さて、どうしたものか……
以前、メイドを雇う雇わないの話のときに、
”お金の無駄だよ、私に任せろ”と、キョウが言っていたのを今思い出した。
……あんまりキョウには隠し事したくないんだけど。
アイリス: …………えーっと……
キョウ: とりあえず自己紹介しないとわかんないよね。
私は野坂 今日子。ハルの同級生なの。
キョウ: ハルとは、昔からの付き合いなんだよ。
炊事洗濯料理、大得意!
遥: アピールするな。
キョウ: むぅぅぅ〜〜……
遥: だから別に、キョウが頼りないわけじゃないって……
迷惑かけるのが辛いんだって……わかれキョウ。
キョウ: 迷惑じゃないのに……
遥: だああっ!すねるなっ!!
アイリス: あ、あのー……
遥: あ、ごめん。
アイリス: い、いえっ!
キョウ: ハルが悪い。
遥: ヘイヘイ……私が悪いですよ。
キョウ: ああっ……ごめんごめん。私も悪かったからすねないで、ね?
ほら、お詫びにまた、胸見せてあげるからー。
アイリス: ひゃぁっ!??
遥: こ、こらっ!上着を脱ぐなっ!
ブラもつけろっ!脱ぎ魔っ!!
キョウ: 見たいくせに……ほらほら、ふにふにー♪
アイリス: わっ……わ……
遥: ……見飽きた。
キョウ: ……じっと見た後、堂々と”見飽きた”って言われるとすごく悲しいなぁ……
遥: 早く着なさい、服。
……俺以外に誰かいても問題ないんだなキョウは……
キョウ: よいしょ……
女の子だし……問題ないでしょ……?
アイリス: …………
遥: アイリスには教育に悪い。
キョウ: 教育って……子供躾けてるんじゃないんだから……
アイリス: えっと……今日子さん……
キョウ: なに?
アイリス: あ、あの……お二人はその……
恋人というものなのでしょうか……??
キョウ: …………
遥: …………アイリスにもそう見えるらしい。
アイリス: ?
キョウ: おかしいのかなぁ、みんなの言うように。
遥: まあ、普通とは違うと思うけど……だから恋人ってわけでもなぁ……
キョウ: あ、私は最近、良い逃げ方法を発見したんだよ。ハル!
遥: ……なんだか、ものすご〜く不安なんだが言ってみろ。
キョウ: もし疑われたらこういうのっ!
”あんたたちは、自分のお兄ちゃんの裸を見て
興奮するんですか!?”とっ!!
遥: 深みにはまってるよっ!!その発言!!
キョウ: え、どこがよ……
遥: 頼むからふつぅーーに否定してくれ……
アイリス: あ、あのー……
遥: あ、ごめんアイリス。
キョウは小さいころから一緒だったから、仲がいいんだ。
アイリス: なるほど……
キョウ: だから、ハルのことなら何だって知ってるわよ。
アイリス: わぁ〜、すごいですねっ!
キョウ: あははー♪
アイリス: あ、私はアイリスと申します。どうぞ、よろしくお願い致します。
立ち上がってペコリと頭を下げるアイリスを見て……
キョウ: うわぁー……礼儀正しい人だねぇ、ハル。
アイリスさんって日本人、だよね。
アイリス: えっと……はい。今日子様。
キョウ: きょ、キョウコサマ……うっわぁ〜……
アイリス: ?
キョウ: ご、ごめん……せめて今日子さんにして……
アイリス: は、はぁ……今日子さん……
キョウ: でも、外人みたいな名前だよね、あいりすって。
アイリス: そ、そうですか?
遥: (や、やっばー……そういうこと全く考えてなかったー……)
キョウ: アイリスって、漢字でどうやって書くの???
遥: か、漢字では書けないんだよっ。
キョウ: あー、そうなんだ……
苗字はなんていうの?
アイリス: えっ……あ、えっと……
遥: いやっ!あの、あれだ!
これは愛称なんだ!愛称!
キョウ: 愛称??
遥: そうなんだ。親しみやすいように。
アイリス: あ、そうです。
今日 子: へぇ〜……そうなんだ。
確かにアイリスって名前、かわいいかもねー。
アイリス: ありがとうございます、今日子さん。
遥: はぁ〜……、よかったー……
キョウ: アイリスって……なんか聞いたことあるなぁ……
遥: 花の名前なんだ。
キョウ: へぇ〜……アイリスさんってセンスいいね。
アイリス: あ、遥様に付けて頂いたのですが……
キョウ: ええっ?!ハル、いい名前考えるねー……見直した。
遥: そ、そうか?
アイリス: お茶のおかわりです。
遥: ん。サンキュ。
キョウ: ありがとっ。
メイドさんかぁ……ちょっとあこがれる職業よね。
遥: キョウには言葉遣いに難ありだから難しいかもな。
キョウ: ハールー!!
遥: いや、それ以外はすばらしいと思うぞ。本当に。
キョウ: 一言多いよ……まったく。
遥: ……で、確か炊事洗濯なら私がやるから、アイリスはいらない、という話だったか?
キョウ: それは、ハルが決めたことだし、もういいけど……
何も言ってくれなかったのが悲しいなー。
遥: すまん、キョウ。
アイリス: 仲が宜しいんですね。
キョウ: 長い付き合いだからね。
遥: あ、ちなみに俺は飯田 遥だ。
キョウ: あんたは自己紹介しなくていいって……
遥: ついでにだ。ついでに。
キョウ: ……でも、ハルはこういう子が好みなのか……
遥: はぁっ?!
キョウ: アイリスさんスタイルいいし……納得。
アイリス: え、そ、そうですか?
キョウ: いいなぁ……私、胸もないし。
アイリス: 胸だけが判断材料ではないと思いますが……
遥: キョウは、胸がもう少しあれば、抜群のプロポーションなんだけどな。
キョウ: そうなのよねぇ〜……
ハル、揉んで。
揉むと大きくなるみたいだから。
遥: そういうのは女友達に頼め……
キョウ: なんでよっ?!
ハルは、私の胸を見れて、揉めるのよー?魅力的じゃない?
遥: み・あ・き・た。
キョウ: ひどっ!ひどすぎるよハル……
うーん……でもまあ、見飽きるほど見せてるからね、確かに。
アイリス: …………
遥: なぁ……アイリスがいるんだぞ。
もう少し自重しろよ……固まってるぞ彼女。
キョウ: そうみたいね……アイリスさんのいるところでは言わない……
遥: 誰もいなくてもイワナイデクレ……
キョウ: 大丈夫よ。ここでしか言ってないから安心して。
遥: すごく不安だ。
アイリス: うぅ……
遥: アイリス?
アイリス: あうぅ……。わ、私だって負けませんっ!
は、恥ずかしくないっ……こんじょ〜〜うっ!!(ガバーッ!!)
遥: 張り合わんでいいっ!!やめろ!
アイリス: ぐすっ……遥様が喜ぶと思って……
遥: …………
キョウ: あはは!アイリスさんって面白いっ!!
遥: はぁ〜……
キョウ: じゃあ、お邪魔しました。
遥: 気をつけて帰れよ?
最近物騒らしいから。
キョウ: 私は大丈夫でしょー……
遥: いや、キョウは可愛い分類に入るんだから危険だ。
キョウ: そうかな……まぁ、いいか。
遥: 来週は来るのか?
キョウ: そうねぇー……来週はハルが来てくれないかな?
遥: めんどくさ。別に用ないし。
キョウ: ひどいよう、ハルぅ……
遥: わかった冗談だ。行くから。
キョウ: じゃあ、また明日。
キョウを見送って、家の中に戻る。
アイリスが、湯のみを片付けている最中だった。
アイリス: お疲れ様でした。
遥: お疲れ様でしたって……
アイリス: あれ……違いましたか……??
遥: まあ疲れたけど。
アイリス: 食事にしましょうか。
遥: あ、悪いな。頼むよ。
アイリス: はいっ。任せてください♪
…………。
遥: ……いいなぁ
エプロンを付けたアイリスが、台所を駆け回っている。
エプロンを付けたアイリス。エプロンを付けた美人。エプロンヲツケタニイヅマ……
遥: ぐあーっ!いいっす!最高ですアイリスさんっ!!
アイリス: はい?
あ、もうすぐ出来ますので、少々お持ちをっ♪
遥: いや、ずっと待ちます!近くで待ってます!
アイリスに近づいて、側で見る。
遥: おぉ……
アイリス: は、遥様?!あわわ……あの……
遥: アイリス、ずいぶん上手いもんだなー……
全く無駄がないように見える手つきだ。これならおいしい食事が作れるのも納得。
遥: これもやっぱり、神様から授かった力なのか??
アイリス: えっと、さぁ……わかりません……
遥: わからないばっかりだな、アイリス……
アイリス: ご、ごめんなさい……覚えていないものですから……
遥: ……う〜ん。そうか、そうだよな……
でも、家事スキルはすごいよな、アイリス……
料理、掃除は出来るし……
アイリス: ありがとうございます♪
遥: 何故洗濯機だけ……
アイリス: あぅ……
遥: 魚だから電化製品がダメってわけじゃないしな。
まあ、別にいいか。なんか追求しても無駄っぽいし。
アイリス: できましたー。
アイリスと協力して、料理をテーブルに運ぶ。
向かい合って食べ始める。
遥: うまい……
アイリス: よかったです♪
遥: そして悔しい……
アイリス: えっと……遥様も練習すればよいのです。
すぐに私よりも上手くなりますよ♪
遥: いやぁ、アイリスには届かないと思うぞ……
ホント美味いし。
アイリス: ありがとうございます。
ニコリと笑うアイリス。魚を飼っていて正解だったなぁ。
アイリス: あ、今日こられた方……
今日子さんは良い方ですね。
遥: アイリスは、あんまりキョウと話さないでくれ……
アイリス: え、どうしてですか??
遥: アイリスがキョウみたいになったら嫌だから……
アイリス: は、はぁ……??
食事を食べ終わり、一息つく。
アイリス: 暑いですね〜……。
遥: ああ、そうか……
俺がアイリスを飼っていた場所はむこうだもんな……
そりゃあそう感じる。
アイリス: 今は、9月ですよね??
遥: ここの土地はちょっと季節がおかしくてな。
9月に梅雨前線が来て梅雨になるんだよ。
アイリス: ……梅雨ではないですね、9月ですと……
遥: で、10月がちょうど夏、という感じだ。
アイリス: わ、これからもっと暑くなるんですか?
遥: この辺りの地域だけそうらしい。
アイリス: 本当に変わっていますね……。
では、7、8月は雪が降ったりするんですか?
遥: いや、7月も暑い。
アイリス: …………
遥: アイリス、暑いの苦手?
アイリス: あはは、大丈夫です。
暑いのは苦手ですが。
遥: ……暑かったり寒かったりすると死ぬとか、ないよなアイリス。
アイリス: それは無いと思いますけど……
遥: あ、そうだ。
俺の隣の部屋を整理したから、今日から使えるよ。
アイリス: はい?隣の部屋ですか?
遥: うん、今まで悪かったね。同じ部屋で。
今日からは隣の部屋を使ってよ。
アイリス: あ……。
私は遥様と同じ部屋が良かったのですが……
遥: 俺の精神が持たないからそれはやめてくれ……
アイリス: は〜い……
アイリス: …………
遥: どうしたの?
廊下でボーっとして。
アイリス: あ、遥様。
雨が降っていたので見ていました。
遥: あ、そうか……。
魚だったんだもんな。珍しいんだろ。
アイリス: ……はい。たぶん。
遥: アイリスの布団は、隣の部屋に運んでおいたぞ。
アイリス: ええっ!?
あわわっ!ごめんなさい遥様っ!!
遥: いや、謝らなくても……
俺は自分の部屋に入る。
アイリス: もう寝てしまうのですか?
遥: う〜ん。まだ起きてるけど。
明日は朝練だし、早めに寝るよ。
アイリス: ではっ!お話させてもらってもいいですかっ。
遥: あ、え、うん……
アイリスも続いた。
遥: よいしょ……。
アイリス: 遥様は、陸上という部活をやっているのですよね?
遥: そうそう。陸上。
アイリス: すごいですね。足が速そうですっ♪
遥: アイリスは走ったことあるのか?
アイリス: あ、はい。
ここに来る道のりは、走ってきた記憶がありますので。
遥: そうなのか……
最初からちゃんと歩けるなんて、親切な神様だな……。
アイリス: そうですね、あははっ。
遥: ”人魚姫”みたいに、アイリスも姫だったのかな。
アイリス: あ……”人魚姫”ですか。
そのお話、私も知ってます。
遥: あ、でも恋がかなわないと泡になって消えるんだぞ?
アイリス: ぁわっ!こ、恋ですか……
えっと……、恋…………
遥: アイリスって、もともとどんな魚だっけなぁ……。
アイリス: あ……えーっと……
さぁ……
遥: そうだよな。アイリスは自分の姿を見ることなんて出来ないだろうし。
奥の方に立てかけてある動物辞典を開く。
アイリスが来た日に、気になって一階の本棚から持って来た物だ。
遥: 昔の記憶は殆ど無いんだが……
見ていれば思い出すかなと思って。
アイリス: うわぁ……魚さんがいっぱいですね。
遥: ……こんなんだっけなぁ……
アイリス: う〜ん……
遥: ……絵で見てもわからないかも。
アイリス: 魚さんはいろいろな形がいるんですね……
あ、生息地と言うものが書いてありますよ?
遥: へぇ……主に淡水魚と海水魚に分かれるのか。
アイリス: えっと、川ですよね。
遥: そうだな。だから淡水魚ってことだ。
淡水魚に絞って探していく。
遥: 上流の川だったな。
アイリス: 寒い地方、暑い地方とありますが……
寒い地方ですよね?
遥: めちゃくちゃ寒い地方だ。
ひとつずつ確認しながら絞っていく。
遥: なんか、アイリスと探してると効率いいな……
探し方が悪かったんだなー俺。
アイリス: オイカワ、アユ、アマゴ……
遥: 追河、鮎、甘子……
へえ……こうやって読むんだ……。
アイリス: どうですか?遥様。
遥: どれも違う気がする……
う〜ん……
アイリス: う〜ん……
遥: ……お?
アイリス: どうしました?
遥: これじゃないかな……
パラパラとめくっていた手を止める。
アイリス: ヒメマスですか……?
遥: 似てるんだけどなぁ……ちょっと違う。
アイリス: 写真ですからね……
遥: それもあるんだろうけど……
……色が違うな。
アイリス: 色ですか?
遥: ああ……
確か……金色だった。
アイリス: 金色ですか……えーっと……
図鑑をめくっていくが、金色の魚など見当たらなかった。
遥: ……んな馬鹿な。
そんなに珍しい種類なのかな……。
遥: そりゃ確かに、スーパーとかで金色の魚なんか見たこと無いが……
アイリス: わかりませんね……
遥: ……まあいいや。今度誰かに聞いてみよう……。
……そろそろ寝ようかな。
アイリス: あ、はい……
アイリスが立ち上がる。
アイリス: あ、ではお休みなさいませ。
遥: おやすみ、アイリス。
アイリス: …………。
遥: ?
どうしたの?
アイリス: あ、あの、やはり私も……
その……
遥様と、寝たいです……。
遥: ぐおっ!!
なんつー事を言うんだキミはーーっ!!
アイリス: えっ?
あ、ごめんなさい……?
遥: ……いや、もういい……
アイリス: だ、ダメですか?
遥: ダメ。
アイリス: うぅ……
やっぱりダメですよね……
ガッカリしながら部屋を出て行く。
遥: ……はぁ……
アイリス: 本当にダメですか……?
遥: ……だめ。
アイリス: ぐすっ……
アイリスは、今度こそ部屋の扉を閉めて、自分の部屋に戻っていった。
遥: …………泣くこと無いのに。
遥: お、俺が悪いんだろうかこれは……
遥: わ、わからん……
まあ……いい。明日謝るか……
早く寝よう……
――カチャ…
アイリス: あぅ……っ!
ホントに、ほんっとーにダメですか……っ?
遥: ……アイリス。
アイリス: は、はいっ
遥: 主人命令。
アイリス: うっ……
う、う、うわあああ〜んっ!!
――バタンッ!!
遥: …………好かれてるのは嬉しいけど……
恋人同士じゃあるまいし……
遥: すっげー罪悪感……。
明日、ちゃんと謝ろう。
そう心に決めて眠りについた。
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