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The Fish Story

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  1

 ……梅雨は嫌いだ。
 …………何故雨が降る……
 降るなら俺が家にいるときだけにして貰いたいもんだ。

美佐: 先輩?

 陸上部マネージャーの美佐ちゃんが、俺の顔を覗き込む。

遥: ん……ああ……なんだい?
美佐: なんかぼ〜っとしてたから……どうかしました?
遥: いやあ……雨いやだなぁと考えてたのさ。
美佐: あ……そうなんですか……

 雨が降ってると走るトレーニングが出来ないし……
 学校もケチだよな、ルームランナーぐらい買わせてくれてもいいのに。

美佐: 確かに雨降ってると走り込み出来ないし……
   学校もケチですよねー……
   ルームランナーぐらい買ってくれてもいいのに〜〜……
遥: はは、全くだ。
美佐: でもルームランナー高いんですよねえ……機能付きは特に。
遥: はぁ……筋トレ終わりっと……
美佐: あ、さすが先輩っ!早いですね。
   あ、飲み物飲みますか?
遥: おお、さんきゅー美佐ちゃん。
美佐: ほらあっ!みなさんも頑張ってくださーいっ!

 床に座って他の部員が終わるのを待つ。

遥: 中学時代、暇つぶしで始めた陸上だったけど、
  今ではそれだけが自慢だなぁ……俺……
  勉強もダメだしな……やる気もないし。
遥: まあそれが、飯田遥様のターニングポイントだったわけだな。
陸上部員: また言ってるよ、独り言。
美佐: 先輩先輩、また独り言出てますよ?
遥: あ……また出てた?
美佐: 先輩はもっといいところありますよ。
遥: ……例えば?
美佐: 先輩は努力家だし、頑張れば何でも出来ますよ。
遥: そうかな……
美佐: そうですよ。
遥: いやあ……うれしいよ。
美佐: 〜〜〜っ……
遥: ?
  俺の顔に何かついてる?
美佐: ゃわっ!な、何でもないですっ!
遥: ん?
陸上部員: ほんとダメだなお前……気付よ。
遥: え?何がだ?
美佐: ほ、ほらほらっ!早くやるっ!
陸上部員: くそぅ……女の名前のくせで生意気な……
陸上部員: 怖い顔のくせに生意気な……
遥: …………
美佐: こ、こらあっ!先輩が気にしてること言ったらダメでしょっ!!
陸上部員: あ……わ、わりぃ遥……
美佐: もっとちゃんと謝るっ!
遥: 美佐ちゃん、いいって。冗談だってわかるから。
  確かに怖い顔だもんなぁ……これは……気にしてないけど。

 俺の顔には、火傷の後がある。それもかなり大きいやつだ。

遥: 美佐ちゃんだって最初のころはビビりまくってたじゃないか。
美佐: あ……それは……う〜……
遥: まあ、俺は気にしてないし……許してやってくれ。
美佐: ……はい……
陸上部員: 悪い、助かった……
遥: いいって事よ。
美佐: キミは反省が足りないから後50回追加ーっ♪
陸上部員: なにぃっ!そりゃないぜ美佐ちゃ〜ん!
遥: まあ、それぐらいですんだと思ってやるしかないな。

美佐: じゃあ、先輩っ!また明日学校でっ!
遥: ああ、じゃあな。

 美佐ちゃんと別れて家に帰る。

遥: ……雨は嫌いだ……
  降るな雨っ!
遥: 俺が家に帰る少しの間だけでもやんで欲しいぞっ!

 梅雨の雨はジメジメしていて、暑いし、大嫌いだ。

遥: ふぅ……やっとついたか……

 家の鍵を開けて、中に入る。

遥: ただいま……

 答える声はない。一人暮らしだけどついついただいまと言ってしまう……

遥: いい癖だな。
  ああ〜……ソファーにすわってテレビでも見るかぁ……

 テレビを見ながらソファーでくつろぐ。

遥: ……もう八時か……
  あ〜あ……高校生活も退屈だなぁ……
  まあ、陸上やってる時は楽しいけどなぁ……

 ソファーに寄りかかって目を閉じる。

遥: ……ふああ……あ〜……

 ――ピンポーン

遥: ん……?誰だこんな時間に……
  まったく迷惑な……

 玄関の方に向かう。

遥: どちらさんで……
  …………
女の子: あ…………

 な、何だこの子……びしょぬれじゃないか……
 看護士さんが何のようだろう……

びしょぬれ看護士: あ、あの……橘 遥様……ですか?
遥: あ……ああ、そうだけど……

 そう言うと女の子の顔がぱあっと明るくなって……


びしょぬれ看護士: 恩返しに来ました、ご主人様っ!

 ……………………。
 …………。

遥: …………は?

 一瞬思考がストップしたぞ……

遥: お、恩返し???
謎の看護士: はい♪
遥: いや、そう言う宗教の誘いはお断りしますっ!!
怪しい宗教勧誘女: あ、ごしゅ――

 ――バタンっ!

遥: な、なんなんだいったい……

 さっきみた、普通の日常ではあり得なさそうな光景が頭の中をよぎる。
 何故白衣……何故ご主人様??何の宗教だ……

遥: ……まさか仏教とかそっちじゃないよなぁ……

 ――コツン

遥: ?
  何だ……まだいるのかな……?

 おそるおそるドアを開けて見てみると……

女の子: うぅ……ここどこ……??
女の子: はぁ……びしょびしょ……寒い……
遥: …………おーい。
女の子: あ……
遥: ……入っていいよ、そのままじゃ風邪ひいちまうし。
女の子: あ…………どうも……

 おどおどと部屋の中に入ってくる。

遥: 待っててくれ、今タオル持ってくるから。
女の子: あ、そんな、悪いです……!!
遥: 風邪ひかれた方が悪いんだって。

 洗面所からタオルを持ってきて渡す。

遥: 拭いたら洗面所に行って着替えた方がいいな……
女の子: あ…………

 部屋からワイシャツとズボンを持ってくる。
 まあ、これなら平気かな。

遥: はい、これに着替えて。

 洗面所にいる女の子に着替えを渡す。

女の子: あ、あの……私……
遥: とりあえず着替えてから話を聞くよ。

 リビングで待つ。

女の子: あ、あの…………
遥: はい、ここに座って。
女の子: は、はい……!
遥: …………で。
謎の女の子: はっ!はいっ!

 シャキーンっと背筋が伸びる。

遥: あなたは誰?ご主人様って何?宗教ならお断りなんだけど……

 ……よくよく考えたらこの時間帯に勧誘は無いだろうけど……

謎の女の子: えーっと……
遥: とりあえずあなたは誰?
謎の女の子: えっ、私は…………
    …………え〜っと……
遥: ?
謎の女の子: …………え〜っと……
遥: どした?
謎の女の子: 名前と言われても……
遥: ??
謎の女の子: 名前、無いんですが……
遥: もしかして……思い出せないとか?
謎の女の子: そ、そうじゃなくて……無いんですよ。
遥: だから無いって……
謎の女の子: いえ、無いんです。
遥: …………

 記憶喪失ってやつか???それってやばいんじゃあ……

遥: とりあえず……名前は保留。
記憶喪失少女: は、はい……
遥: で、ご主人様って?恩返しって何??
  全く身に覚えないんだが……
記憶喪失少女: あ、はい……
    えっと、凄くビックリされると思うのですけど……
    現実的にはあり得ない話ですから…………
遥: あり得ない……??
記憶喪失少女: え〜っと……まず、私のことなんですけど……
          私、人間じゃないんです。魚なんです。
遥: …………
記憶喪失少女: 信じられないと思いますけど、本当ですよ。
遥: ……(こいつ頭おかしいんじゃないか??)
記憶喪失少女: ご主人様には魚の時にとてもお世話になって……
遥: いつの話だ……魚だなんて助けた覚えが……
  …………あるな。
記憶喪失少女: はいっ!あの時の魚ですっ!
遥: …………

 一気に現実味を帯びてきた。
 幼いときに、確かに魚を助けた……と言うか飼っていた事がある。
 魚の事は、俺の他にはだれも知らないはず。

遥: 父さんと母さんには内緒にしてたしなぁ……喰われそうだったし。
記憶喪失少女: ??
遥: あ、いや、気にしないでくれ、癖なんだよ。
記憶喪失少女: ……それで、助けて貰ったお礼に、こうしてここに来ました。
遥: ……本当に夢の話だけど……
  でも……本当っぽい……

 彼女の顔を見る。
 ……今見ると結構美人……
 ……さっきの透けて見えた胸が脳裏を……
 ちょっと恥ずかしくなり、目をそらす。

遥: しかし……なんだって今時……飼っていたのはかなり昔だぞ。

 四、五歳だっけな……たしか。
 そのあたりの記憶は、かなりあいまいだ。

魚少女: さぁ……気が付いたら人間になっていまして……
    もしかしたら、私の気持ちが神様に通じたんでしょうか?
遥: …………はは……
  本当にあのときの魚なのか?常識じゃ考えられん。
魚少女: ですよね。私もまだ戸惑っていますしー。

 今の状況をコロコロと笑ってるよこの子は……

遥: しかし……飼っていたことは誰も知らないはず……
  う〜ん……ずいぶん昔だからなー……俺も覚えているのは、
  リボンをくくりつけてやったぐらいのことだけだが……
魚少女: あ、確かに頂きました♪
    でも、泳いでいるうちに緩くなってしまい、
    一日で無くしてしまいましたが……
遥: あ……そうだったっけ……
  …………

 いきなり彼女が立ちあがってお辞儀をする。

魚少女: では、これからよろしくお願いします!ご主人様!
遥: あ……おう……
魚少女: そう言えば、もう夕飯は食べられましたか?
遥: あ、いやまだだけど……
魚少女: では、お作りいたしますね。
遥: 作れるのか?
魚少女: ええ。
遥: 魚なのに?
魚少女: 大丈夫です。
遥: …………じゃあ、お願いしようかな。
  今日はスパゲッティにしようと思っていたんだ。
魚少女: はい♪わかりました♪

 そう言うとぺこりと頭を下げて台所の方に向かう。

遥: ……かわいいなぁ……

 年は俺と同じくらいなのかな……雰囲気的にそんな感じがする。
 しかし……凄いなこれは……あり得ない。
 あの子解剖したらなんか賞が取れそうだぞ。

遥: しかし……やっぱり一番気になったのは……

 あの魚……

遥: 女だったんだなぁ〜〜……


 しばらくすると、彼女が料理を運んできてくれた。
ものすごく美味かった。俺の料理と比べ物にならん……すごい……

遥: 魚なのに……

 何か魚に負けるって屈辱……いや、俺も料理苦手だけどさぁ……

遥: ふぅ……美味かった……

 その後テレビを見て過ごす。

遥: そろそろ寝るかな。

 と、言いながら振り向いて気づいた。

魚少女: ?
遥: 帰らないのか?
魚少女: え……え〜っと……
遥: …………もしかして、ここに泊まる気だったりとか……
魚少女: で…………出来れば住み込みで恩返ししたいと思っているのですが……
遥: …………え?
魚少女: だ、だめ……ですか?
遥: え、いや……でも…………
魚少女: 私の事は気にしなくていいんです、
    私はご主人様に恩返しするために来たのですから。
遥: 恩返しって……何をするつもりなの?
魚少女: え?恩返しといえば、ご主人様の身の回りのお世話をするのが
    普通なのではないのですか?
遥: 普通かどうかはしらないけど……
  ま、まぁそれはともかく、君がいてくれると俺的にとても助かるし……
  飯は美味いし可愛いし、言うこと無しなんだが……
遥: 一人暮らしだから、女の子が住むって言うのは……
  父さんとかもたまに来るし……
魚少女: おっ!お願いしますっ!!
   
私、ここしかいる場所がないんですっ!!
遥: ……まあ、確かに川に返すわけにも行かないし……
  んな事したら半殺人犯だもんなぁ……魚だけど。
魚少女: お願いしますっ!!
遥: ふぅ……わかったわかった、いいよ。
魚少女: ほ、本当ですかっ!!
    あ、ありがとうございますご主人様っ!!
遥: よし、そうと決まったら……
  あそこの襖に予備の布団があるから敷いてくれよ。
魚少女: はっ!はいっ♪

 嬉しそうに駆けていく魚少女……あ、転んだ。

遥: まったくしょうがないな……

 俺も寝室に向かう。

魚少女: わーーーっ!!!
遥: あ、わりぃ……押入つめまくったから開けると雪崩が起きる事言うの忘れてた。
魚少女: きゅぅ……
遥: よっと……大丈夫か?
魚少女: は、はぃぃ……
遥: いやぁ……悪い悪いっ!この通りっ!

 布団を綺麗に敷いて謝る。

魚少女: いっ!いえそんなっ!
遥: よいしょ……整理しないとダメだなぁ……
魚少女: ご主人様!そういうのはこれから私がやりますからっ!
遥: さて……
  ねえ。
魚少女: はい?ご主人様何ですか?

 布団の上に正座をする。
 すると彼女も布団の上で正座をした。

遥: …………俺のこと、怖くないのか?
魚少女: ?
遥: これ。

 顔の火傷の後をさして言う。

魚少女: え、何で怖いのでしょうか……??
遥: え……だってほら、普通の奴と違うし……
魚少女: 普通の人と違うと怖いのですか?
遥: そういうわけじゃ無いんだが……
魚少女: ん〜???
遥: ……まあ、怖くなければいいか……
  で、とりあえず……そのご主人様って言うのやめてくれ……
魚少女: え……
    で、では、何とお呼びすれば……
遥: 普通に遥で呼び捨てにしていいよ。
魚少女: そんなっ!それはダメですっ!
遥: じゃあ、ご主人様は辞めてくれよ。
魚少女: で……では……遥様とお呼びしてもいいですか?
遥: 様付け……ま、まあご主人様よりましか……
遥: うん、じゃあそれで。
魚少女: はい……遥様……♪
遥: で、だ。
女の子: はい?
遥: 君の名前なんだけど……
  さすがに無いとこっちも呼びにくいんだよなぁ……
女の子: あ……
遥: 魚の時の名前って無かったの?
名無し娘: 特にこれといっては……
遥: さすがに飼ってたときの名前”うおちゃん”だっけ?
  あれは辛い物があるしなぁ……
名無し娘: あっ!凄く懐かしいです♪
    そうでした、私、そう遥様に呼ばれていましたね
遥: なんか呼ばれたい名前とかない?
名無し娘: 遥様に決めていただければ、私はどのような名前でも満足です♪
遥: う〜ん……そうだなぁ……梅子、高子、あすか……
  ん〜〜……なんかピンっと来ないなぁ……
  明日決めるか……明日は丁度土曜、休みだし。
名無し娘: あ、はい。
遥: じゃあ、今日は寝ようか。
名無し娘: あ、はい。

 電気を消して布団に入る。

遥: ……ふああ〜……
名無し娘: …………
遥: あれ……もう寝ちゃったのか……早いな……
  俺も寝よう……


 …………
 …………

9月15日(土)


名無し娘: 遥様ー、起きてくださいー。
遥: ん……ん〜〜……
名無し娘: もう八時ですよー、起きてくださいー。
遥: ん〜……ふああ〜……
名無し娘: おはようございます、遥様。
遥: ん〜……あ、おはお……
  すー……
名無し娘: あ、遥様〜っ!
遥: んん〜……あ〜……早く着替えないと……
名無し娘: えっ!あ……遥様っ!今日は学校お休みなのではっ!?
遥: …………あ、そうだった……じゃあお休み……くー……
名無し娘: あ……

 

遥: ふああ〜……よく寝たぁ〜……
名無し娘: あ、おはようございます。
遥: ……そこで何してるの?

 彼女が正座をしてこっちを見ていた。

名無し娘: 八時頃に起こしたのですが、すぐ寝てしまいまして……
    起きるまで待っていたんです。
遥: ずっと?
  そりゃ悪いことしちゃったなぁ……
  俺、寝起き相当悪くて……
名無し娘: そうだったんですか、申し訳御座いません、起こしてしまって……
遥: いや、いいっていいって。
名無し娘: あ、すぐ朝食の準備を致しますね。

 すっと立ち上がって部屋を出ていってしまう

遥: あ……
  …………
  不思議な子だな……

 布団の上に座って目を擦る。

遥: …………しかし……思った以上に大変なことになってないか?
  と言うかやばいよな……屋根の下に男女二人は……すげえラッキーだが。
  ……昨日はそんなこと考える余裕無かったけど……
  世間体とか……どうしよ……

 ちょっと焦ってきた。

遥: とりあえず……学校とか友達とかに知られたらまずいよな……
  あ、父さんとかにもダメか?

 どうしよ……
 成り行きで大変なことになっちまったな……あ〜……

遥: …………しかし追い返すわけにも行かなかったしなぁ……
  うん、仕方ない、うん。

 自分を納得させてリビングに向かう。

名無し娘: あ、遥様、もうすぐ出来ますから。
遥: 急がなくてもいいよ。

 新聞に目を通す。

遥: …………そう言えば名前決めなきゃな。
名無し娘: あ、私はどんな物でも……
遥: ん〜…………

 新聞をすらすらと見る。なんかないかなー。
 この際だから変わった名前で可愛い名前がいいな。都合いいなおい……

遥: お……
  ”まるでアイリスのような……”なんだ?アイリスって……
  え〜っと……国語辞書……じゃなくて英語かな……

 調べてみる……アイリス……え〜っと??神話?イーリス??

遥: 虹の女神、イーリスの聖なる花……ふむ……つまり可憐だってことか?
  …………ん〜……アイリスねえ……どう?
名無し娘: アイリス……ですか……
       …………
遥: 気に入らない?
名無し娘: いえっ!とても気に入りました♪
遥: じゃあ、これから俺は、アイリスって呼ぶから、
  あなたも自分の名前はアイリスだからな?
アイリス: あ、はい♪
遥: アイリス。
アイリス: はい♪遥様♪
遥: よし、合格。
アイリス: お待たせしました。
遥: おお、美味そう……

 アイリスが作ってくれた朝飯を食べる。

遥: どうした?食べないのか?
アイリス: い、いえっ!私は遥様が食べ終わってからで……
遥: んな気をつかわんでいいから、一緒に食おう。一緒に食った方が美味いし。
アイリス: あ、はい。

 アイリスの分の食器を持ってくる。

アイリス: あっ!遥様っ!そんな私のために……
遥: いいっていいって。
アイリス: だ、ダメですよっ!
     そう言う仕事をするために来たんですからーっ!

遥: だからいいってばっ!

 どてどてと茶碗をめぐって争う。

アイリス: あ……っ!
遥: うわっ!!

 アイリスに引っ張られて転けた。

遥: いったぁ……
アイリス: ああっ!も、申し訳ありませんーっ!!
遥: あ……茶碗が……

 俺の目の前で茶碗が割れている。転んだ時に離してしまったのか……

遥: あ〜……
アイリス: ああーっ!
    ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!

遥: はぁ……いいって……
アイリス: ほ、本当に申し訳ないです……
遥: とりあえずそこに座って。
アイリス: は、はい……

 見るからにしょんぼりしている。まったくもう……

遥: いいかい、アイリス。
  俺がやるとかやりたいって物は俺がやる。わかった?
アイリス: はい……ごめんなさい……
遥: ……そんなにしょんぼりしなくてもいいよ。
アイリス: はい……

 茶碗が割れてしまったので、俺が使ってから洗って貸してやった。

遥: …………そうだなぁ……

 アイリスが着ている服……俺の服なんだが、
 背が高いアイリスにはちょっと小さいらしく……
 胸が……へそが……
 まあ嬉しい状態だが、常にこの状態では目のやり場にかなり困るし……
 間違って外に出たら俺が逮捕されるよ……

遥: こりゃやっぱり、いったん買い物に行かないとダメだな……
アイリス: 買い物…………ですか?
遥: アイリスの服とか、日用雑貨とか無いとな。
  あと、さっき割っちまった茶碗も。
アイリス: あ……遥様…………
遥: い、いや、大げさだなアイリスは……
  あ、それと……
アイリス: はい?
遥: とりあえずアイリスはメイドさんとして雇うって形にするからさ。
アイリス: メイド……ですか……
遥: だから、家の外ではメイドって言うんだからな?
アイリス: あ、はい。
遥: それと、魚って言うのは絶対秘密だから……わかるよな?
  まあ、信じないだろうけど一応な。
アイリス: あ、はい。

 アイリスが用意してくれたお茶を飲む。

遥: ちょっと休んだら出かけようか。
アイリス: はい♪

 …………
 …………なんか凄く流れてきてしまったが……

アイリス: はぁ〜……お茶は美味しいですね〜♪

 ……やっぱまずいよな……これ……
 いや、待て待て何で魚って信じてるんだ俺は……

遥: ……魚のことは俺しか知らないからなぁ……
  待て、何で人間になってるんだよ……
アイリス: 私もさっぱりです……あはは……
遥: …………それに何故日本人で日本語話せて二足歩行出来る?
アイリス: きっと神様に私の気持ちが通じたんですよ♪
遥: ……神様なんていないぞ。
アイリス: ええっ!
   い、いないんですかーっ!?

遥: いや、いないって。
アイリス: じゃ、じゃあ私はどうして人間に……
遥: ……そこが問題なんだよなぁ……う〜ん……
アイリス: でも、どうしてかはわかりませんけど……
     魚の私が人間になれて、遥様に恩返しできてとても嬉しいんです……
遥: そ、そっか……
アイリス: あ、失礼してお茶をもう少し……
遥: ……まあ、いいか……って全然よくねえ。
アイリス: ?
遥: ……とりあえず……父さんには話さないとまずいな。
  時々いきなり家に帰って来やがるからなぁ……
  …………やっぱメイドさんで通すのが一番か……
アイリス: え〜っと……メイドさんというのは……
     身の回りのお世話をする人のことですよね。
遥: うん、まあ…………
遥: ……あとは父さんだなぁ……
  …………ま、何とかなるかなー。
アイリス: はぁ……
遥: じゃあ、行くか。
アイリス: あ、はい。
遥: …………あ、そう言えば来たとき裸足だったっけ?
アイリス: え?え〜っと……、…………ごめんなさい、よく覚えてません……
遥: あ、やっぱり裸足だったか……靴がない。
アイリス: は、はぁ……
遥: ……んじゃあ、とりあえずこれを履いてくれ。
アイリス: あ、はい。

 アイリスをつれて外に出る。

遥: じゃあ、駅前に行くぞ。
アイリス: はい。
遥: あ、アイリスっ!こっちだこっちっ!
アイリス: あ、は、はいっ!

 アイリスが走って俺の隣に来る。

遥: ……そう言えば、アイリスはどこから来たんだ?
アイリス: どこから??
遥: …………よく俺の家がわかったな……
アイリス: ……そうですね。
遥: そうですねって……
アイリス: えっと……よく覚えてないんですよね、私……
     気が付いたらいつの間にか家の前に立っていたような……
     え〜っと……??
遥: いや、そんな馬鹿な……
  …………いや、そもそも……
  魚が人間になるって言うところから間違ってるから
  つっこめないんだが……
アイリス: は、はぁ……
遥: …………でも嘘ついてないしな……どう見ても。

 …………う〜ん……

遥: …………魚、ねえ……
アイリス: あ、あの〜……遥様??
遥: ……ん〜……人間……だよなぁどう見ても。
アイリス: あ、はい。いつの間にか……
遥: 気が付いたら家の前に立ってた……って言うことは、その前は覚えてない?
アイリス: え……え〜っと……え〜っと……、…………
遥: ……じゃ、人間になる前の一番最後の記憶はどこ?
アイリス: え?えっと……ん〜……
     …………
     …………
遥: 魚の時のこと覚えてないのかーーっっ!!!
アイリス: あぅぅ……
遥: …………
アイリス: え、ええっと……
     遥様にお世話になったことは覚えているんですが……
     え〜っと……後はあまり覚えて無いんですよ。
遥: …………
アイリス: ごめんなさい……覚えて無くて……
遥: あああーーっ!いいのかこんなわけわからん状態でーっ!!
  つかアイリスはそれでいいのかっ!?
  気にならないのかいきなり人間になってっ!!
アイリス: え……え〜っと……気にはなりますけど……
     でも、これで遥様に恩返しできますし……
遥: ……つか魚が人間になるわけないよな……
  …………でもアイリスは魚のことを知ってて……
  ……例え他の誰かが魚のこと知っていたとしても、
  こんな事しても意味ないわけで……

 …………。

遥: ……わかった。了解。
アイリス: 遥様?
遥: アイリスは魚。うん。終わり。
アイリス: あ、はい。
     ……あ、車がいっぱい走ってます。
遥: 駅が近いからな。
  …………さてと……
アイリス: ……?
     あのー……?
遥: とりあえずその服を何とかするか……

 さっきから周りの視線が……
とりあえず適当に店に入る。

アイリス: わぁ……♪
遥: あ、走らなくても……
アイリス: ♪〜
遥: ……(女の子だな……普通の……)
アイリス: あの……遥様?
遥: あ、それがいいの?
アイリス: え、あ……でも……
遥: ?
アイリス: 私、お金を持っていませんし……
遥: いいっていいってっ!好きなのを選ぶといい。
アイリス: で、でもぉ……
遥: それ、可愛いよ。
アイリス: あ……ではあの、見てもらえますか?
遥: ?

 服を持ったまま更衣室を指さす。

遥: ああ、うん。
アイリス: では、少し待っていてくださいね。
遥: …………

 周りの視線うざいぞ……

遥: 学校でも様付けで呼ばれるとあるから慣れてはいるが……
アイリス: 遥様〜♪
遥: お……、…………
アイリス: どうですか?
遥: …………う、うん、似合ってる……(綺麗……)
アイリス: そうですか♪よかったです……♪
遥: とりあえず、その服を買おうか。
アイリス: あ、有り難う御座います。

 よし、購入。

遥: じゃあ他の服を見ようか。
アイリス: え……ええーっ!?いえっ!一枚でいいですっ!
遥: なんでだよ……一枚じゃさすがに辛いぞ……
アイリス: い、いえっ!遥様に買ってもらうなんて、
     それだけでもいけないのに何枚も買うなんて出来ませんよーっ!
遥: いや、大丈夫だから。
アイリス: そ、そんな……やっぱりダメ――
遥: アイリス。
アイリス: は、はいっ!!
遥: 俺……アイリスにもっといろんな服着て欲しいなぁ〜……
アイリス: あ、はぁ……
遥: と言うことでアイリスには着せ替え人形さんになって貰おう。
アイリス: え?え?
遥: 着せ替え人形にはやっぱり服がないと着せ替えできないよな。
アイリス: え、あ、はい。
遥: と言うことで服を買おう。
アイリス: あ、はい……
遥: ……これなんかどう?
アイリス: あ、はぁ……

遥: よーし、買ったな。
アイリス: こんなにいっぱい……本当によかったんでしょうか……
遥: いいのいいの。着せ替え人形着せ替え人形♪
アイリス: は、はぁ……

 ……何か無理矢理納得させたけど……
着せ替え人形って、俺言ってる意味わけわからんぞ……

遥: …………あ。
アイリス: どうかしましたか?遥様。
遥: ……えーっと……アイリス。
アイリス: はい?
遥: ……アイリス、今からお買い物をしてきておくれ。
アイリス: お買い物ですか?
遥: うん。お金渡すから、あそこの店で何枚か買ってきなさいな。
アイリス: ???
遥: 行けばわかる。うん。待ってるから。
アイリス: あ、はい。では急いでいって来ます。
遥: いや、急がなくても……あ、つまずいた。

 …………
 さすがに下着売り場には恥ずかしくていけないし。


遥: いやあ、買った買った。
アイリス: ……こんなにたくさん……本当によかったのでしょうか……
遥: いいのいいの。
アイリス: で、でも……
     メイドの物をご主人様が買うというのはやはり違うような……
遥: ……アイリス。
アイリス: あ、はいっ!
遥: とりあえずアイリスの持ってるメイドのイメージを捨てなさい。
アイリス: え……?え?
遥: いいか、メイドっていうのはな、
  ご主人様の言うことを優先しないといけないんだ。
  つまり、アイリスは俺の言うことを優先しないといけないわけだ。
アイリス: は、はぁ……
遥: だから、俺がやるって言ったらやらせて欲しいし、
  俺があげるって言ったら素直に貰うこと。わかった?
アイリス: は、はい……
アイリス: うぅ〜〜……メイドと言うのは難しいお仕事ですね〜……
遥: いや、もっと簡単に考えようよ……
アイリス: うぅ〜〜……
遥: ……ダメだこいつ。

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